【読書】骨を弔う(宇佐美まこと)
こんにちは。
いつもブログをご覧いただき、ありがとうございます。
現在「梅雨の宇佐美まこと週間」絶賛継続中のやまみほです。
何なんだろ?この中毒感。
「羊は安らかに草を食み」で初めて知った作家でしたが、その次に読んだ「愚者の毒」以降、宇佐美まことの底無し沼から抜け出せなくなっています。
すっかり彼女(宇佐美まことは女性です!)の毒気にやられ、魅了され、常習性のある薬物のように追い求め、読み終えるとまた次、また次と作家の小説を買い求め、読みあさっています。
今回感想を載せるのは「骨を弔う」と「るんびにの子供」です。
【骨を弔う】宇佐美まこと著(小学館)
《表帯》
30年前のあの日、本当は何を埋めたんだろう。
小学生5人は、ある目的をもって、山中を彷徨っていたーーー。
要注目作家が放つ「記憶を震わすミステリー」
全てを覆す衝撃のラスト!
《裏帯》
口を閉じ、目をつぶれ。
耳に土くれを詰め込め。
もうお前には、声高に自己を主張する権利もない。
他者を損なう力もないーーー。
《裏表紙あらすじ》
謎の骨格標本が発掘されたことを報じる地元紙の小さな記事を見つけた家具職人・豊は、数十年前の小学生時代、仲間数人で山中に骨格標本を埋めたことを思い出す。
だが、それは記事の発掘場所とは異なっていた。
同時に、ある確かな手触りから「あれは本当に標本だったのか」との思いを抱いた豊は、今は都内で広告代理店に勤務する哲平に会いに行く。
最初は訝しがっていた哲平も、次第に彼の話に首肯し、記憶の底に淀んでいたあることを口にする。
リーダー的存在だった骨格標本埋葬の発案者・真実子の消息がわからないなか、事態は思いも寄らぬ方向に傾斜していく。
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これは今まで読んだ5作とは全く違ったテイストでした。
ホラーでもファンタジーでもなく一応ジャンルはミステリーなのでしょうね。
知恵が働き、孤高で超然とした少女・佐藤真実子とつるんで遊んでいた4人の幼なじみたち。
彼らは真実子の発案で、理科室の骨格標本を盗み出し、山中に埋めたのです。
しかしその山の奥深くに埋めたはずの骨格標本が川の側で見つかったという記事を読んだ豊は、大きな違和感を感じ始めます。
「自分たちが埋めたあの標本は、本当に標本だったのか?」
そこから豊の過去を辿る旅が始まります。
最後に大きなどんでん返しがあります。
そしてハッピーエンドと来たもんだ!
なるほど、これは解説にあるように宇佐美まことB群の作品(ちょっと明るめ)なわけだ。
解説の中にあった宇佐美さんの言葉を載せておくと、、
「最近は泣かせる話が多いでしょ?人生の応援歌みたいな。そういう話を読みたい人が多いのはわかっているし、それもいいとは思います。しかし、私が書きたいのは『人間』だし、人間を書くのが小説だと思っているので、あえて人間の暗部に切り込んでいきたいのです。怪談小説についてもそこは同じで、怪異そのものではなく、怪異に出会った人の方に注目して書いたつもりです。要するに、人間は弱くてずるくて汚いものだし、嘘はつくし、欲もある。だけど、それだからこそ魅力的だし、ミステリアスだし、書こうと思えばいくらでも書くことがありますので」
少年時代に真実子が盗み出した骨格標本を山の奥深くに埋めるという体験をした幼なじみたちが、大人になり当時を思い出しながら話は進みます。
宇佐美さんお得意の様々な辛い出来事が容赦なく描かれ目を覆いたくなりますが、この作者は最後必ず悪を罰してくれるので痛快です。
早々にその骨が誰のものであったのか、読者は気づくでしょう。
しかし、この小説の主題はそこではない。
そこに至る過去の人々の葛藤を、そして大人になった幼なじみたちが、濃密な感覚を呼び醒まし、自分を取り戻すための旅なのです。
夏に川の岩場から淵に向け飛び込んだ時の描写です。
「あの岩の上に立った時は足が震えたものだ。淵の水も凍りつくほど冷たかった。引っ張りこまれるみたいにぐぐっと沈み込み、手足で必死に水を掻くが、水面は遠かった。死がほんの少しの距離にあると感じたあの数秒間ーー。怖いのに、何度も飛び込んでそれを体感していると、夏は静かに去っていった。冷えた体の、息も絶え絶えの少年たちを置き去りにして。」
夏の終わりが近づいている時の情景。
「季節の色は、都会よりもうんと濃かった。夏に秋の気配がすっと入り込む瞬間を、子供は敏感に感じとったものだ。夏休みが終わり、もう子供が主役の王国にいられなくなる瞬間を。どこかよそよそしい硬質のものが混じった風に吹かれて、青い草波の上に立つ。捕虫網をかまえて。そうやって、透明な翅を夕日に輝かせて飛んでくるギンヤンマを待っていた。息を止めて、気配を消して、そして、さっと網を出す。勝負はひと振りで決まる。追うのではなく、ただ網を差し出し、横に振るだけでいい。」
遠い昔の故郷の情景描写に、少年たちの冒険の日々に、懐かしさが込みあげました。
あの時代は確かにそこにあった。
それは決してなくならず、自分の中に容易に再現することができるのです。
清らかな水の流れに足を差し入れた時のひんやりした感触を。
沈む夕日が黄金色に輝く一瞬を。
太陽に暖められたむっとする草いきれを。
強い風に背中を押されて土手を駆け下りる時の爽快感を。
これはやはりミステリーではなく郷愁漂うヒューマンドラマですね。
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【るんびにの子供】宇佐美まこと著(角川ホラー文庫)
《裏表紙あらすじ》
近づくのを禁止された池で、4人の園児たちは水から上がってくる少女を茫然と見つめていた。後にその女の子を園で見かけるようになり……(『るんびにの子供』)
ヒモ生活を追い出され悪事の果てに古家に辿り着いた男は老夫婦の孫だと騙り同居し始めるが……(『柘榴の家』)
犬の散歩中に見かけた右手の手袋が日に日に自宅に近づいてきていることに気づいた姉は……(『手袋』)
第1回『幽』怪談文学賞短編部門大賞受賞作を含む珠玉の怪談集。
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今回はそれぞれ全く雰囲気の異なる恐怖が描かれた短編集でした。
よく短編集を読むと、後で題名を見たとき、いくつかは「あれ?これってどんな話だったっけ?」と印象が残らないものがあるものですが、この短編集にそれはありません。
それぞれが色鮮やかに思いおこされ、タイプの異なる「嫌な感じ」がジワリと肌を掠める感覚になります。
日頃大人しくて、自分を表現することが苦手な人が、嫉妬や怒りの感情を溜め込み、圧縮し、濃度が最大になった時に発する負のパワーに戦慄します。
「るんびにの子供」の主人公(普通の主婦)が一番怖い😱
「手袋」の妹の描写には嫌悪感しかないです。
そしてそう見えてしまう姉の冷徹な視線に鳥肌が立ちます。
お気に入りは「ランボォー(漢字が出てこない💦💦)」。
「羊は…」でも出てきた満州の話は残酷で辛いですが、最後スカッとします。
これで宇佐美さんは6冊読んだことになるのかな?
そして、次も宇佐美さんです🤣🤣🤣
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