【読書】愚者の毒(宇佐美まこと)
こんにちは!
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久しぶりの読書感想です。
以前読んだ「羊は安らかに草を食み」が素晴らしかったので、宇佐美まことさんの以前の作品を読んでみました。
【愚者の毒】宇佐美まこと著(祥伝社)
1985年、上野の職安で出会った葉子と希美。互いに後ろ暗い過去を秘めながら、友情を深めていく。しかし、希美の紹介で葉子が家政婦として働き出した旧家の主の不審死をきっかけに、過去の因縁が二人に襲いかかる。全ての始まりは1965年、筑豊の廃坑集落で仕組まれた、陰惨な殺しだった、、、。絶望が招いた罪と転落。そして、裁きの形とは?衝撃の傑作!
《表帯》
[第70回 日本推理作家協会賞受賞]
緑深い武蔵野で、灰色の廃坑集落で、絶望が招いた罪と転落。そして裁きの形とは、、、。
「戦慄すべき悪、荒みきった人間を容赦なく描ききった衝撃作!」 書評家・杉江松恋
《裏帯》
長く記憶される小説となるだろう
書評家・杉江松恋氏
犯罪小説は、それを手に取る者に自らの内なる闇を意識させる。(中略)優れた犯罪小説は必ず事例の特殊から存在の普遍へと向かう。今また、その系譜に加えられるべき作品が誕生した。(中略)本作を読みながら幾度も、行間から自分に向けられた見えない指の存在を感じた。[解説より]
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舞台は1985年の武蔵野、1965年の筑豊、2015年の伊豆です。
日本の高度経済成長時代にその波に乗ってどんどん豊かになって行った多くの日本人の中で、時代に取り残され忘れ去られた人々がいました。
閉山となった三池炭鉱の廃坑集落で、一酸化炭素中毒の後遺症に苦しむ人々とその家族の絶望。
落盤事故や坑内火災で命を奪われた主を失った家族の悲惨。
生まれながらに差別と貧困の中にあり、そこから逃れる術を画策する人々の苦悩。
そんな1960年代がこれでもかこれでもかと壮絶に描かれます。
彼らはただそこから逃げ出したかっただけなのに、、、。
ああするしかなかったはずなのに、、、。
時代の闇に取り残され、その出自に翻弄され、罪を犯してしまった彼らの生きる道は、あまりにも哀しく、空っぽで、ただひたすらに人生の帳尻が合う日を待っているのです。
「忘れた頃にな、差し引き勘定がばちーっと合うとやが。人生はな、死ぬる前に帳尻ばちゃあんと合うようになっとるばい」
その言葉は二人の背中に呪いのように貼り付いて決して離れない。
最後を迎えたとき、彼はどんな空を見たのだろう。
やっと終わった、、、そこに見えたのは、きっと青空だったと信じたいです。
あの形で終われたことが読者にとっても唯一の救いとなりました。
ミステリーなので、ネタバレを書くことができず、何の事やら?の内容になってしまいましたが、この作品も素晴らしかったです。
宇佐美さんは、過去の史実を絡めつつ、人間の醜さと残酷さ、そんな中に見える一筋の希望を描くのがうまい。
張り巡らされた伏線回収も見事です。
他の作品も読んでみようと思います。
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